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東京地方裁判所 昭和26年(ワ)1282号 判決 1956年9月14日

原告(反訴被告) 石津昭一

被告 下平はる 引受参加人(反訴原告) 山口芳子

主文

原告が引受参加人に対し別紙<省略>目録記載の建物の賃貸借契約に基く権利を有すること竝びに右賃貸借の昭和二十四年十一月二十九日から昭和二十五年七月三十一日に至るまでの賃料として一箇月金四百円を超える金員を支払う義務がないことを確認する。

原告が被告に対し右建物賃貸借の昭和二十四年九月一日から同年十一月二十八日に至るまでの賃料として一箇月金四百円を超える金員を支払う義務がないことを確認する。

原告のその余の本訴請求竝びに反訴原告の反訴請求はこれを棄却する。

訴訟費用は被告及び引受参加人(反訴原告)の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は本訴につき「(一)(1) 、原告が引受参加人に対し別紙目録記載の建物の賃貸借契約に基く権利を有すること(2) 、原告が(イ)、被告に対し右建物賃貸借の昭和二十四年七月一日から同年十一月二十八日に至るまでの賃料として又(ロ)、引受参加人に対し右建物賃貸借の同月二十九日以降の賃料として、いづれも一箇月金四百円を超える金員を支払う義務がないことを各確認する。(二)、被告は原告に対し金四万四千百円及びこれに対する同年七月二十三日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払うべし。(三)、訴訟費用は被告及び引受参加人の負担とする」との判決竝びに右(二)の部分につき仮執行の宣言を求めその請求の原因として、

(一)、原告は昭和十二年十月五日下平平之助から別紙目録記載の建物を賃料一箇月金四十円毎月末日払の約で賃借し爾来これに居住している。

(二)、しかして右賃料はその後賃貸人の請求により累次増額され昭和二十四年三月一日以降は一箇月金七百二十円となつた。

(三)、なお原告は

(1)、右建物の雨漏が甚しいので建物保存のため同年五月中屋根瓦二十二坪の葺替工事をなし工事請負人大竹作次に請負代金二万二千円(坪当千円)の支払をなし

(2)、右建物東南側(長さ十一間)及び西南側(長さ若干)の竹垣が戦時中防空の目的等のため隣組又は賃貸人によつて取除かれたまゝ放置され右建物東北側の生垣が破損し又右建物勝手口の門(開戸附)及び板塀(長さ一間)が朽廃したので同月中右竹垣及び勝手口板塀の跡に板塀を、勝手口門の跡に開戸附門を各新設し又右生垣を修理し以上の工事請負人大竹作次に請負代金二万二千円の支払をなした。

(四)、その後下平平之助はその所有の右建物を被告に譲渡し同年六月六日その所有権移転登記手続をなし次で被告は右建物を引受参加人に譲渡し同年十一月二十九日その所有権移転登記手続をなしたので、被告及び引受参加人は原告に対する賃貸人たる地位を順次に承継したがいづれも右賃貸借の存続を否定し原告に立退を求め紛争を生じた。

(五)、しかしながらそもそも右賃貸借が終了するいわれはない。のみならず右建物の家賃統制額は前記(二)の賃料改訂当時一箇月金二百五十円であつたところ同年六月一日以降一箇月金四百円となつたに止まるから右賃料の改訂は右統制額を超過する限度において無効である。

(六)、よつて原告は(1) 原告が(イ)、引受参加人に対し右建物の賃貸借契約に基く権利を有すること(ロ)、被告に対し右建物賃貸借の昭和二十四年七月一日から同年十一月二十八日に至るまでの賃料として又引受参加人に対し右建物賃貸借の同月二十九日以降の賃料として、いづれも一箇月金四百円と超える金員を支払う義務がないことの各確認を求めるとともに(2) 、被告に対し前記(三)、(1) の必要費及び同(2) の有益費合計金四万四千百円に訴状送達の日の翌日たる同年七月二十三日から完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金を付して支払を求めるため本訴に及んだと述べ反訴につき請求棄却の判決を求め反訴原告主張(二)乃至(四)の事実はすべて否認すると答えた。<立証省略>

被告訴訟代理人は請求棄却の判決を求め答弁として、原告主張(一)乃至(三)の事実竝びに(四)の事実中被告が下平平之助から原告主張の建物の譲渡を受け原告主張日時その所有権移転登記を経由したこと(但し譲渡の日時の点を除く)は認めるが原告主張(五)の事実は不知。右建物譲渡の日時は昭和十四年頃であつて右登記の日ではない。しかして原告主張(三)、(1) の工事はその工事範囲竝びに請負代金の点において妥当を欠き建物保存に必要な程度を超え又同(2) の工事は原告の恣意的工作物として改良の程度を超えいづれも被告の意思に反してなされたものである。仮にそうではないとしても原告主張(一)の賃貸借契約には建物の修繕竝びに改造は賃借人の負担においてなすべき旨の特約が存在した。従つていづれにしても被告は原告の出費を償還すべき義務がないと抗争した。<立証省略>

引受参加人(反訴原告)訴訟代理人は本訴につき請求棄却の判決を求め答弁として、原告主張(一)、(二)の事実、(四)の事実(但し引受参加人が原告に対する賃貸人たる地位を承継したとの点を除く)竝びに(五)の事実中原告主張の建物の家賃統制額が原告主張の額であることは認める。しかしながら

(一)、本件賃貸借契約は被告が賃貸人であつた当時既に解除されたものであるから引受参加人において賃貸人たる地位を承継すべきいわれはない。すなわち下平平之助と被告とは夫婦であるが昭和十六年頃大阪在住の長男下平忠平が妻子を連れて東京に転居することになつたので原告に対し本件建物の明渡を求めたが原告が容易にこれに応じないため忠平は計画を変更して朝鮮に渡り同地で終戦を迎えることとなり昭和二十一年四月中着のみ着のままで内地に引揚げ平之助夫婦と同居するに至つたところその住居が狭隘であると同時に忠平の生業を立てるのに適しないので平之助は忠平をして本件建物に居住せしめるため直ちに原告に対し賃貸借の解約を申入れ且つ立退の便宜等を提供した。もつとも原告が立退を肯んじないまま時日が経過するので忠平はやむなく大阪に赴き友人方に寄寓して商業を始めたが本件建物に対する自己使用の必要が解消したわけでなくその後も被告等において原告に対し明渡の交渉を継続した。しかるにその交渉が難渋する一方忠平が窮乏を脱しないため被告夫婦は忠平を救済する必要上むしろ本件建物を売却処分して忠平のため更生の資金を得る外はないと考え先づ原告に対し右建物の買取を求めたがこれ亦原告の不誠意により実現しなかつたところ幸い引受参加人が本件建物所在地の近辺を適地として売家を物色中であつたので昭和二十四年十一月中右建物を引受参加人に売渡した次第である。従つて前記解約の申入は正当の事由を具えその後六箇月を経過すると同時に効力を生じたものである。

(二)、又本件建物につき原告主張の家賃統制額をそのまま適用するのは失当である。というのは右建物の敷地百二十坪(床面積相当の部分二十四坪五合及び附属地九十五坪五合)は元来借地であるが、昭和二十一年五月頃これに対する地代が値上されたので右建物賃貸借の当事者はこれを機会に右建物の賃料は同月一日以降地代相当額を純家賃額との合計額たるべき旨を協定したうえこれに相応する賃料の改訂をなした。しかして元来家賃は右協定のような部分を以て構成さるべきものであるところ昭和二十五年八月十五日物価庁告示第四七七号が施行されるまでの家賃統制額は全然敷地の地代には関係なく家屋の種類、床面積、賃貸価格のみを照合して定められたものであるから家賃構成部分の内純家賃額に限つて適用さるべきであつてこれをそのまま地代相当額を含む本件賃料に適用するのは不当である。そこで今ここに本件建物に対する昭和二十四年六月一日以降の家賃統制額(純家賃額)一箇月金四百円とその敷地百二十坪に対する右同日以降の地代統制額一箇月金三百六十円(坪当三円)とを合算すると一箇月金七百六十円となるからこれを以て家賃の正当な統制額とみなければならない。のみならず昭和二十五年八月一日以後の家賃に適用される前記告示は家賃の構成に関する前示見解を明確に採用して地代相当額及び純家賃額の合計額を以て家賃統制額とすべき旨を定めるとともにその各部分につき修正を加えた。そこで又これに従つて計算すると本件建物に対する同日以降の家賃統制額は一箇月金千五百六十七円二十銭となる。従つて本件賃料の約定はこれを不当とする筋合がなく全額有効である。

と述べ反訴につき「反訴被告は反訴原告に対し別紙目録記載の建物を明渡し且つ昭和二十四年十二月一日から昭和二十五年七月三十一日に至るまで一箇月金七百二十円、同年八月一日から右建物明渡済に至るまで一箇月金千五百六十七円の各割合による金員を支払うべし。訴訟費用は反訴被告の負担とする」との判決竝びに仮執行の宣言を求めその請求の原因として、

(一)、別紙目録記載の建物は昭和二十四年十一月二十九日反訴原告が前主下平はる(本訴被告)から買受けてその所有権取得登記を経由したものであるが反訴被告はこれを従前賃借し現在も引続いて占有している。

(二)、しかしながら右賃貸借は前記のとおり(本訴答弁(一))下平はるが賃貸人であつた当時正当事由に基く解約申入により終了したものである。論者あるいは建物賃貸借の解約申入の後六箇月の期間を経過してもその後に建物の譲渡がなされるとき、これによつてなお解約申入の正当の事由に変更を生じないような特別の場合の外解約の効力はないとなすがかような見解は住宅払底の社会状勢に応じやむを得ず考案された窮余の論法にすぎず住宅事情が緩和された今日一般に妥当するものではない。

(三)、従つて反訴被告の右建物占有は正当な権原に基くものではなく不法にも反訴原告に対し賃料相当の損害を及ぼしている。

(四)、よつて反訴原告は反訴被告に対し本件建物の明渡竝びに賃料相当額たる昭和二十四年十二月一日から昭和二十五年七月三十一日に至るまで一箇月金七百二十円、同年八月一日から右建物明渡済に至るまで一箇月金千五百六十七円の各割合による損害の賠償を求めるものである

と述べた。<立証省略>

理由

(以下特記しない限り原告とは本訴原告兼反訴被告を、被告とは本訴被告を、又引受参加人とは本訴引受参加人兼反訴原告を各指称する。)

原告が昭和十二年十月五日下平平之助から別紙目録記載の建物を賃料一箇月金四十円毎月末日払の約で賃借し爾来これに居住していること、右賃料がその後賃貸人の請求により累次増額され昭和二十四年三月一日以降は一箇月金七百二十円となつたこと、下平平之助がその所有の右建物を右賃貸の後被告に譲渡し昭和二十四年六月六日その所有権移転登記手続をなし被告が原告に対する賃貸人たる地位を承継したことは当事者間に争がない。してみると特段の事情がない限り右賃貸人たる地位の承継は右所有権移転登記の日に生じたものと解するのが相当である。もつとも被告は右建物譲渡の日時は昭和十四年頃である旨主張するがこれを認めるに足る証拠はない。

しかして被告が右建物を引受参加人に譲渡し昭和二十四年十一月二十九日その所有権移転登記手続をなしたことは引受参加人において認めて争わないところであるが右建物所有権移転の結果賃貸人たる地位の承継が生じたことについては引受参加人が極力これを争うところである。(もつとも引受参加人が昭和三十一年四月二十日午前十時の本件口頭弁論期日においてこの点を自白しながら同年七月二十日午後二時の本件口頭弁論期日において右自白を撤回したこと原告が右自白の撤回に異議を留めたことは記録上明らかであるが右自白は自己に不利益な法律効果の存否に関するいわゆる権利自白にすぎないから引受参加人がこれに拘束されるいわれはなく従つて右自白の撤回は適法である。)

すなわち引受参加人は本件賃貸借契約は被告が賃貸人であつた当時正当事由に基く解約申入により解除されたものである旨を主張するのでこの点につき考えてみると証人下平平之助の証言竝びに原告本人尋問の結果を綜合すれば被告は下平平之助の妻であるが同人は本件建物を原告に賃貸中昭和十六、七年頃大阪在住の長男下平忠平が東京転住を希望したので原告に対し右建物の明渡を求めたこと、ところが原告においてこれに応じなかつたので忠平は朝鮮に渡り同地で終戦を迎えることとなつたことと、そこで平之助はやがて内地に帰還すべき忠平を迎え入れる必要を感じ再度原告に対し明渡を求めたこと、ところが復又原告がこれを肯んじなかつたので忠平は内地に引揚げると同時に大阪に居住するに至つたこと、その後平之助は税金の負担に堪え難いので昭和二十四年五月上旬原告に対し賃料の増額もしくは建物の買取のいづれかに応じられたい旨の申入をなしたが原告が希望に沿うような応答をしないところから右建物を他に売渡すこととしこれがため原告に対し約二箇月にわたり強硬に立退を要求したこと、その間に被告は平之助から右建物の譲渡を受け原告に対する賃貸人たる地位を承継したものであること、ところが原告においては右立退の要求に応ぜず被告を相手取り賃借権確認のため本件訴を提起するに至つたこと、しかして一方被告は右訴の係属後右建物を引受参加人に譲渡したものであることが認められる。してみると平之助は原告に対し前後三回にわたり賃貸借の解約申入をなしたことになりその内第一、二回の申入はいずれも長男忠平をして居住せしめる必要に基くものであつたようであるがその都度原告が応じなかつたとはいえ忠平においても事態に順応して他に住居を定めたものであるから特段の事情がない限り右各申入については自己使用の必要性が事情の変更によつて一応消滅したものと認めるのが相当である。従つて残る問題は右第三回目の解約申入が正当の事由を具えるか否かに局限されるが他人が賃借中の建物を好んで高価に買求める者はめつたにいないのが通例であるから右解約の申入は右建物をできるだけ高価に売却する目的に出たものと推認されるところ平之助もしくは被告が財政上窮乏を告げ右建物を高値で売却処分する以外に生活の方法がないのなら格別さような切迫した事情が存したことについてはなんら証拠のみるべきものがないから右解約申入が正当の事由を具えたものであるとはにわかに断定し難い。もつとも引受参加人は平之助には忠平の財政的窮乏を救済する必要があつた旨を主張するがこれを肯認するに足る証拠はない。それならば本件賃貸借契約が引受参加人の前主を賃貸人とする当時解除されたものである旨の引受参加人の主張は理由がない。

従つて引受参加人は昭和二十四年十一月二十九日本件建物につき所有権取得登記を経由すると同時に原告に対する賃貸人たる地位を承継したものと謂わなければならない。

しかるに引受参加人において右賃貸借承継の事実を争うから引受参加人に対し右賃借権の確認を求める原告の本訴請求は理由がある。それと同時に右賃貸借承継の事実が存する以上原告に対し本件建物の不法占有を理由に右建物の明渡竝びに損害の賠償を求める反訴原告の反訴請求は理由がない。

次に原告の本訴請求中賃料の一部支払義務不存在確認を求める点につき考えてみるとそもそも家賃統制額を超えて家賃の額を定めることは強行法規たる地代家賃統制令に違反し法律上無効と謂う外ないけれどもこれがため賃貸借契約全部を無効とするときは住宅使用に関する法律秩序が混乱し国民生活の不安を招来することが明らかであるから地代家賃統制令が本来国民生活の安定を図るため地代家賃の暴騰を抑制阻止することを主眼とするものであることに鑑みると右統制令違反の賃貸借契約もこれを全部無効とすべきものではなく統制額の範囲内において有効に成立したものと解し統制額超過の部分のみを無効となすのが相当である。しかしながら他面統制額超過の賃料も一旦これが支払われた以上は特段の事情がない限り不法原因給付となり賃借人においてその返還を請求し得るものではないと解すべきである。

本件につきこれをみると原告は被告に対し昭和二十四年七月一日から同年十一月二十八日に至るまでの賃料につき統制額超過部分の支払義務がないことの確認を求めるが成立に争のない甲第八号証の一、二証人下平平之助の証言によれば原告は同年六月乃至八月分の賃料を約定に従い一箇月金七百二十円の割合により弁済供託し被告がこれを受領したことが認められるから仮に右約定の賃料額が統制額を超過したとしても右請求中同年七月一日から同年八月三十一日に至るまでの賃料に関する部分は特段の事情がない限り即時確定の法律上の必要を欠き従つて本案の判断をなすまでもなく理由がない。

ところで本件建物に対する家賃統制額が昭和二十四年六月一日以降一箇月金四百円であつたことは引受参加人において認めて争わないところであり被告に対する関係においては成立に争のない甲第九号証によつてこれを認めるに十分であるから前記認定のように同年三月一日以降一箇月金七百二十円に増額された約定賃料の額が地代家賃統制令に違反することは明らかである。しかるに引受参加人は昭和二十五年八月十五日物価庁告示第四七七号が施行されるまでの家賃統制額は全然敷地の地代には関係がなく家屋の種類、床面積、賃貸価格のみを照合して定められたにすぎないから本来地代相当額と純家賃額とを以て構成さるべき家賃の内純家賃額の部分に限り適用さるべきであつてこれをそのまま地代相当額を含む本件賃料に適用するのは不当であると主張するけれども地代家賃統制令第四条乃至第六条の規定に照せば右告示による改正前の家賃統制額といえども必ずしも引受参加人主張のような方法で定められたものでないことは多言を要しないし本件の場合においても契約当初に定められた一箇月金四十円の賃料が停止統制額となりこれにつき経済事情に応じて数次の修正が加えられたものであることが明らかであるから右約定賃料が地代を照合しないで純家賃額として取極められたというなら格別さような事情がない限り引受参加人の前記見解は成立すべきものではない。しかして昭和二十五年八月一日以降の賃料については前記告示により家屋の賃貸価格に一定の倍率を乗じて算出される額を以て純家賃額としこれに別途に算出される地代相当額を加算したものを以て同年七月三十一日現在における家賃の停止統制額に代るべき額とされその額が従前の家賃統制額の増額となるべきことは明らかであるところ本件約定賃料が右告示に従つて算出される統制額を超過することについてはなんらこれを肯認する証拠がない。

そうすると原告の前記請求(但し前示賃料支払済の部分を除く)中被告に対し昭和二十四年九月一日から同年十一月二十八日に至るまでの賃料として、又引受参加人に対し同月二十九日(引受参加人が原告に対する賃貸人たる地位を承継した日)から昭和二十五年七月三十一日に至るまでの賃料としていづれも家賃統制額たる一箇月金四百円を超える金員を支払う義務がないことの確認を求める部分は理由があるが引受参加人に対し同年八月一日以降の賃料につき右同様の確認を求める部分は理由がない。

最後に原告の本訴請求中必要費及び有益費の償還を求める部分について考えると原告が昭和二十四年五月中原告主張のような瓦の葺替工事竝びに板塀、門の新設及び生垣の修理工事をなし原告主張の請負代金の支払をなしたことは被告の認めて争わないところである。しかしながら被告が本件建物の譲渡を受けこれによつて原告に対する賃貸人たる地位を承諾した時期は前記認定のとおり右工事以後の同年六月六日であるところ賃貸人の負担すべき必要費、有益費等の償還義務は右のような賃貸人たる地位の承継によつて当然に承継されるものではないと解すべきであるから仮に前記請負代金が賃貸人の負担に帰すべきものであつたとしても被告の前主に請求するなら格別被告に対しその償還を求め得べきものではない。のみならず賃借人が有益費を出資した場合においても賃貸借終了の時においてその価格の増加が現存するときに限りその増価額の償還を受け得るにすぎない。従つて右請求はその余の判断をなすまでもなく理由がないこと明らかである。

以上の次第であるから原告の本訴請求は前説示において理由があるとなした限度で認容しその余を棄却すべく又反訴原告の反訴請求は全部棄却すべく訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十二条但書を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 駒田駿太郎)

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